東京地方裁判所 昭和27年(ワ)8505号 判決
原告 古川浩
被告 日本競輪株式会社
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、「被告会社の昭和二十四年四月四日の発行済株式総数は百五十三万八千四百五十株であつて、資本の額は三千七十六万九千円であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として、「原告は昭和二十六年十二月七日以来引き続き被告会社の株主であつて、現に千百株の株式を有するものであるところ、被告会社は昭和二十三年九月八日その発行済株式の総数、一株の額面二十円のもの九千株であつて、資本の額十八万円であつたが、同日臨時株主総会において、資本の額を五千万円に増加し、その増加した資本の額四千九百八十二万円について新株式二百四十九万千株を発行することを決議し、次いで同新株式全部について引受払込があつたものとして昭和二十四年四月四日右増資の登記をしたが、同新株式のうち九十六万千五百五十株については全く引受及び払込がなかつたにもかかわらず、会社理事者において仮空の名義を以て引受及び払込の形式を作為して増資手続を進めた上、仮空人名義の株券を作成して被告会社に保管していたいわゆる抱株であつて、この部分については頭初から増資即ち新株式の発行がなかつたものである。しかるに、被告会社は、その後昭和二十七年七月三十日臨時株主総会の決議により資本の額を三千七十六万九千円に減少し、九十六万千五百五十株の株式を消却したものとして同年十一月一日減資の登記をしたが、これは唯形式的に実際の資本の額及び発行済株式の総数に合致させるためにしたに過ぎないものであつて、増資登記をした昭和二十四年四月四日当時既に発行済株式の総数は百五十三万八千四百五十株で資本の額は三千七十六万九千円であつたのであるから、その旨の確認を求めるため本訴に及んだ。」と述べ、被告の、原告は本訴確認を求める利益がないとの主張に対し、「被告会社の前記時期における発行済株式の総数及び資本の額は、少数株主による株式総会の招集請求権、利益の配当請求権その他株主としての資格に基く権利行使の重要な基礎となるものであるから、これが確認を求めることは、法律上の利益があるといえる。」と述べた。
被告訴訟代理人は、主文第一項と同旨の判決を求め、答弁として「原告主張の事実は、全部認める。しかし次の理由によつて、原告の請求は理由がない。
(一) 原告の主張によれば、原告主張の増資については、株主総会において増資決議がなされたけれども、新株式の一部について引受及び払込がなかつたにもかかわらず会社理事者において仮空の名義を以て引受及び払込を作為してしたものであるから、その限度において、増資による新株式の発行が不存在であるというにある。しかしながら、かかる場合増資及び新株式の発行そのものがその限度において法律上不存在であつたとは言えない。畢竟、原告のいうところは、実体的に引受及び払込がなかつたという増資無効の原因たる事実に藉口して増資不存在を主張するものであつて理由がない。
(二) 又、増資不存在において一部の増資不存在を主張することは許されない。けだし、増資は、株主総会の決議によつて定められた増加額において成立すべきものであつて、一部の不成立即ち一部の増資不存在ということはあり得ない。けだし、旧商法下資本確定の原則の当然の帰結にして、これを増資不可分の原則ともいうことができる。
(三) 被告会社は、原告主張の通り、減資の決議及び登記をしたので現にその発行済株式の総数及び資本の額は、原告主張のそれと全く一致しており、今更過去に遡つてこれを確定する法律上の利益がない。
(四) 前記増資及び減資によつて原告の有する株式数に増減の変動がなく、これによつて原告は何等の損害を被つたものでないから、本訴の確認を求める利益がない。
(五) 以上すべて理由がないとしても、原告は、被告が既に自ら公明正大な減資の手続によつて改めている増資の違法な部分を徒らに取り出して紛争を求めているのであるから、本訴は原告の権利の濫用によるものとして、又は旧商法第三百七十二条において準用する第百七条の規定により請求を棄却すべきである。」と述べた。
三、理 由
原告主張の事実は全部当事者間に争がない。そこで、原告の請求が法律上成立しうるか否について判断する。
(一) 原告主張の増資につき適用される改正商法(昭和二十五年法律第百六十七号)施行前の商法によれば、法律は、なるべく増資が不成立に終り又は無効となることをさけようとして、仮空人又は他人の名義を以て株式の引受をした者の払込義務を認め(第二百一条第一項)、引受又は払込のない株式があつた場合には、取締役に引受け又は払込義務を認め(第三百五十六条第一項)ている。原告主張の如く増資の株主総会の決議があり、一応全株式について引受払込があつたものとして増資の登記がなされた以上、増資不存在とはいえない。若し仮空人名義を以て引受けられた株式があれば、そのような引受をした者に対し払込を請求すれば即ち足る。又全然引受のない株式があれば会社は取締役に対しその引受及び払込を求めることができるのである。
(二) 而もその後、被告会社は昭和二十七年七月三十日臨時株主総会において、前記引受払込のない株式を消却して発行済株式の総数を百五十三万八千四百五十株とし、資本の額を三千七十六万九千円に減少する旨の決議をなし、同年十一月一日右減資の登記をなしたことは当事者間に争がない。したがつて、被告会社は原告が本訴において確認を求めると同様の発行済株式の総数と資本の額とに改められており、この関係においては、本件当事者間に現在の法律関係につき争があるといえない。
よつて、以上何れの点からするも原告の本訴請求は、他の点の判断をするまでもなく失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十八条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 小川善吉 畔上英治 岡田辰雄)